茨城の海、唯一の定置網
定置網。その名のとおり、網を一定の場所に置いて魚を獲る網、漁法である。かつての茨城県には北茨城市平潟地先や日立市会瀬地先に複数の定置網が存在したが、平成12年からは会瀬地区に唯一となっている。ちなみに、北は仙台湾、南は九十九里までみても定置網は会瀬にしかない。定置網漁業は、いわゆる漁船漁業とは大きな違いがある。網を決まった場所以外には設置できないということだ。網の張り方を変えることはできるが、魚群を追いかけることはできない。漁模様は、潮の流れや魚の動きに大きく左右される。海との運命共同体。豊かな自然環境がなくては成り立ち得ない漁業のなかでも、ひときわ海に寄り添う漁業が定置網といえるだろう。
会瀬の定置網漁は、魚がよく動く春と秋に活気づく。今回の取材は、そんな春の漁期真っ盛りの5月下旬。例年ならばマアジやマサバが獲れ盛る頃だが、今年は"イナダ"(ブリ)が大漁だという。
それはそれで良い取材になるだろうと、大漁の"イナダ"と、そろそろ漁期を迎える"ハナダイ"(チダイ)を期待して、久慈町漁業協同組合会瀬支所の横田副組合長ほか9名の乗組員への挨拶もそこそこに、朝5時の薄明かりのなか氷を積んで出港を待つ漁船"会瀬1号"に乗り込んだ。