シラスは狙って巻き獲るもの。
シラス漁は沿岸で行われる。川上さんは操舵室の中板に足を乗せ、船の上部から顔を出して船を走らせる。船には蛇輪が付いているがそこには手を触れない。素人目には、ちょっとしたアクロバットだ。魚群探知機も付いてはいるが、見ている様子が伺えない。すでにシラスの漁場に目星がついているということか。
シラスを獲る船は沿岸小型漁船で、いわゆる1艘まきだ。船の後部から網の片側を順に海に入れながら、ぐるり円を描くように船を回し、網の残り片側も順に海に入れる。ぐるりと丸く網に囲まれた部分にシラスがいれば一網打尽というわけだ。逆に言えば、ある程度の距離で網を曳き続ける底びき網漁等とは異なり、狙った場所の魚を獲る漁であり、そこにシラスがいるか、いないかの見極めが全て。漁師の経験が圧倒的にものをいう。
川上さんは、「この辺でやってみますか」と言って、左舷の網を海に入れた。網は勢い良く海に飲み込まれていく。その間、船は円を描くように走り、網が全て海に入ったところで船は真っ直ぐに網をひくように走り出した。それまで弧を描いていた網は、真っ直ぐな2本のラインとなって船の後ろに伸びている。早くも巻き上げの段階だ。
網の巻き上げはボールローラーの機械式。川上さん達は船の左舷と右舷に別れ、巻き上げられる網を手際よくさばいていく。あっという間に網は巻き上げられ、網の終端である袋網が見えてきた。袋網をしごきながら手で引き上げると、中にはたっぷり入ったシラスの姿が。漁師としては当たり前なのだろうが、ちゃんとシラスが入っていたことにまずは驚く。
獲ったばかりのシラスを早速頂くと、何ともいえないプリプリとした食感。川上さんは、「氷で締めた方がもっと旨い」という。船上で獲れたてのシラスをさっと氷にくぐらせると、シラスの身は締まると共に、薄っすらと感じた苦味や匂いも気にならなくなり、旨みが際立った。シラスは獲ってからも勝負なのだ。