春の風物詩 二艘曳きのサヨリ漁 Webマガジンいばらきの地魚市場vol.3

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曳き網開始6時半。麗人らのご機嫌はうるわしいか。

サヨリ漁は体よりも目を使う

出港からおよそ30分。徳雄さんの船が速度を落として停止し、それに呼応して勝雄さんの船がゆったりと詰める。 サヨリ漁の網は片方の船に積み込まれており、網を曳く前に、もう片方の船に網を曳くツナが渡される。波やうねりのある洋上で、わずか数mまで船を近づけ曳きツナを渡す光景は、ちょっとドキドキしてしまう。

勝雄さんの船から徳雄さんの船に曳きツナが渡されると、2隻の船はエンジンをうならせ間合いを広げていく。 同時に網とツナについた錘が船尾の金属板に当たって、『カン、カン、カン、カン、カン』と心地よい金属音を奏でながら網とツナが勢いよく海に飛び込んでいく。船から伸びるツナが全て出切る頃、2隻の間隔は60mほどに広がり、船尾から見る海面にはV字様に網が展開された。漁場は水温12℃。網を曳く船の速さは3.5から5ノット(時速6.5から9km)。曳き網時間は30分から1時間。さて、今日は多くの麗人にお目にかかれるだろうか。

サヨリ漁の話を聞こうと様子を伺っていると、勝雄さんは、真剣な眼差しで横を見たり、後ろを見たりしながら操船している。てっきり、まっすぐ網を曳くだけと思っていたので、少し不思議な光景だ。「サヨリ漁は体よりも目を使うんです。一緒に網を曳く僚船との間隔を保ったり、潮の水色見たり、網の様子や魚の入り具合を見たり。もちろん周りの船の様子も見ています。サングラスもかけますが、漁が終わって帰る頃には目が痛くなりますよ。」

なるほど。横を向いての操船理由はそういうことか。考えてみれば、2艘で網を曳くのだから、間隔が狭くても広くてもダメなはず。曳いている網の漁獲能力が最大限引き出されるように曳いてこそ、狙う魚が獲れるのだ。網に入った魚の量はドンジリ(網の一番後ろで魚が溜まるところ)の暴れ方でわかるという。5kgでバチャバチャ、10kgで膨れて、40kgで網が沈んでくるという。それに、網口で魚がはねることもあるらしい。「ほら、さっきまで静かだったドンジリが暴れてきてるでしょう?」

たしかに網の様子は違ってみえる。 「最近は2カゴくらいのことが多いですね。最高では10カゴ入ったこともありましたよ!」 1カゴはだいたい25kgというから多いときは250kg!そんなに入ったら船への引き上げはおそろしく大変に違いない。まさにうれしい悲鳴だろう。

長く伸びる赤い下顎と、短い上顎の受け口が特徴的なサヨリ。すらりとした美しい姿の反面、腹腔膜が黒いところから「サヨリのように腹黒い」と使われることも。茨城県では、12月から5月にかけて漁獲され、旬は2月から4月。

これは食べたい!

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