『魚獲り、イカ獲り。これが俺のすべてだ。』
漁場に着くまでの間、操舵室で小泉船長に問いかける。ヤリイカのこと、経験されてきた漁業のこと、漁業の未来のこと。船長は気も使ってか、話を続けてくれる。
暗闇にまばゆいディスプレイには、過去の航跡が幾重にも映っている。ノートを手に取り「これが俺のすべてだ。」と言う。覗かせてもらったノートには毎回の曳網記録などが記されていた。
イカの漁場は、水温と経験、そして僚船の情報で決めるという。過去の経験はノートと航跡が記録されたGPSプロッタに詰まっている。この日、自動操舵機能も使って向かった漁場は、久慈浜よりも南。大洗方面だ。自動操舵機能がホイール付きのマウスで設定される。かなりのハイテクに、驚きを隠せなかった。
「スタンバーイ」。5時22分、船長から船室で待機していた乗組員にマイクで声がかかる。7分後、投網が始まり、およそ30分経ってから網を曳き始めた。漁場の水深は約130メートル。底びき網は、通常、水深の3倍の長さのワイヤー等で曳かれるから船から網までの距離は約400mもあることになり、網の揚げ降ろしだけでも時間がかかる。しかも、それだけ船から離れたところにある漁具でも、船長はギリギリの調整を行っているという。「底は擦るけどゴミ※は入れない。ゴミをきらって網を浮かせばイカは網から逃げる。」まさに長年の経験がなせる技。これも本当に驚きだ。
※ヒトデなど水揚げしない底生生物や海底の石などのこと。
右上の画面内の色とりどりな線が日々積み重なった航跡だ。
大昭丸の小泉船長。ヤリイカやメヒカリなど、久慈浜の水揚げを支える底びき網漁師のひとりだ。