ヤリイカが光に輝く
陸がかなたにみえる船から海鳥が離れない。網への魚の入り具合はわかるはずもないのに、彼らは彼らなりの経験で船に期待するのだろうか。投網から1時間半。いよいよ揚網だ。漁船が止まり、徐々に後進しながらワイヤーが機械で巻き上げられていく。
「ガラガラガラガラガガガガ、ガシャン!」と船に響く轟音と衝撃。衝撃は地鳴りのごとく船体と体を小刻みに縦に揺らす。底びき網を水中で大きく横に開かせるオッターボードと呼ばれる鉄製の板が水面を割って引き上げられ船尾に固定される様だ。そのダイナミックさに気持ちが昂る。
船尾に浮かんでいた漁網が船上で吊るされ漁獲物が甲板に広がる。そこにはサバやカナガシラなどの魚に混じってきらめくヤリイカの姿があった。水揚げ直後のイカは透明感たっぷりで、「美味しそう」の気持ちに増してその美しさに目を奪われる。
「今日はこんなだけど、ここがイカいっぱいになるんだ。そんなときは魚なんて入らない。せっかく(船に)乗るんだから、そういうときに来たらいいのに。」と話しかけてくれた乗組員。取材日と大漁日の合致。そうはうまくいかないと毎度の乗船取材で痛感する。
この後、再び漁具は投入され曳網が始まり、船上では漁獲物が種ごと大きさごとに選り分けられ、速やかに海水で洗い流されていく。そして、冷えた海水が入ったタルに氷とともに入れられ船倉に格納されていく。久慈浜の漁船は出港当日に帰港、水揚げするため鮮度が良いと評価されているが、それを実現するための船上での段取りである。
そして13時半。この日、5時半頃の1回目の網入れから、最後となる3回目の網揚げが終わった。ここ数日芳しくないというなか約430kgのヤリイカが漁獲された。